「毎日何かが届かないとつまらない」翻訳家の1冊に驚き、人生でいちばんの“お取り寄せ”を振り返る

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『村井さんちのお取り寄せ』という本を読んだ。 

翻訳家でエッセイストの村井理子さんが、ここまでのお取り寄せ好きだったことに驚く。なにしろ本の最初に「毎日何かが家に届かないとつまらない」と書いてあるのだ……!

村井さんはとにかく「たくさん原稿を書いている人」というイメージが私にはある。訳書と著書の発刊ペース、そして連載エッセイの数々をこなす間に、毎日のように取り寄せる何かを選び、受け取っているなんて。

私は本当にモノグサな人間なので、何かを選んで決める、そして宅配便の受け取りがあるというただそれだけのことでも面倒に思えてしまう。ああ、たいした仕事量でもなく、ダラダラ家で過ごす日がほとんどだというのに……。まあ、それはともかく。

忙しい日々を助ける「お取り寄せ」

村井理子『村井さんちのお取り寄せ』(ワニブックス)

筆者提供

村井理子『村井さんちのお取り寄せ』(ワニブックス)

かにの表紙からお取り寄せグルメ本を想像する人も多いだろうが、それだけの本ではない。村井さん愛用のPCキーボードや掃除機、愛犬に関するグッズなどのこと、これまで収集したもの、それに伴う家族の思い出や個人史が軽快に、たっぷりとつづられていく。

村井さんは双子の男のお子さんがいるのだが、彼らが小さい頃は「ストレスが溜まると子どもたちの下着をまとめ買いするというストレス発散法を見つけ、夜中にパンツと靴下を買いまくるなどしていた(パンツと靴下は多いほうがいい)」というくだりが印象的だ。

洗って干して、たたんでの手間の日々が行間からにじんでくるような。仕事・家事・育児の中で「お取り寄せ」にも助けられてきたひとつの形を思う。同時に、もし私が小さい頃にネットショップがあったら、うちの母もあれこれと買って助けられ、ストレス解消にもなっていたんだろう……と思えてもきた。

私もちょうど、久しぶりに食べたくなって宮城県の笹かまぼこを取り寄せたところだった。以前にこの連載でも紹介した、石巻市・粟野蒲鉾店のもの。

久しぶりにホームパーティを開くので、遊びに来てくれる友人にふるまいたくなったのだった。魚介のすり身揚げは日本各地に名品が多い。和歌山「天乙商店」の「つまみみっくす」もたまに取り寄せたくなる。

ごぼう入り、いんげん入り、ごまれんこん、えびしょうがなど風味もいろいろなミニ揚げの詰め合わせ。噛むほどに素材の良さが感じられてくる。それでいて味わいはやさしい。

また太刀魚をぜいたくに使った「ほね天」なる商品もおすすめ。名前のとおり骨ごとすりつぶすことで生まれる香ばしさが魅力だ。これを炙って、おつゆで軽く煮てうどんの具にすると実にうまい。もちろん、炙ったところをおろししょうがでつまみにするのもたまらない。

一度、取材で工場内を見せていただいたことがある。機械化はされているけれど、昔ながらのシンプルな作り方を大事にされているのに頭が下がった。目の前はすぐ海。取材を終えて潮風を受けながら帰ったときの気持ちよさを、取り寄せるたびに思い出す。

お弁当にもつまみにもいい、ナゲット

秋川牧園のチキンナゲットを入れた、ある日のつれあい用の弁当

筆者提供

秋川牧園のチキンナゲットを入れた、ある日のつれあい用の弁当

取り寄せで最近リピートしたものといえば、山口県・秋川牧園の冷凍チキンナゲット

知人にいただいて試してみたら肉の香り、そしてきめ細やかなパン粉を感じる食感の良さに一発でやられてしまった。クセがなく、くどさも皆無。それでいて程よいパンチはあるから、お弁当のおかずにもちょうどいい。うん、ビールのつまみにもいいし、きっとお子さんたちも好きじゃないかと思う。

ちなみに『村井さんちのお取り寄せ』には、二十歳になるお子さんふたりと夫さんが一度にたいらげる揚げ物が写真つきで紹介されているのだが、冗談みたいな量に絶句してしまった。

「肉が食べたいと言われるとぞっとする。(略)また一時間かけて揚げ物をするのか」という一文が心にしみ入ってくる。私は人生において、一時間ずっと揚げ物をしていたことはない。「料理」というもののごく一部分しか私はかじったことがないのだよな、とあらためて思いもする。

そして大変ではあれど、こんなことを出来るのも「彼らが若いときだけだろう」から頼まれれば作る、「私にはそれぐらいしかやってあげることがないし」と村井さんは続けるのだった。

私はあまり食べない子どもで、小中学生の頃には母親から「あんたは作り甲斐がない」とこぼされ、「せっかく田舎が農家でお米いっぱい送ってくれるのに……」などと言われていた。確かにあの頃、定期的に母の生地・新潟の山畑から届く野菜やくだもの、米、手作り味噌などはうまかったな……と思い出す。どれも味が濃かった。笹団子や干し柿も手づくりするような家で、市販品に負けない出来だったと思う。

大学生になって、ひとり暮らしをしてから味噌や笹団子が食べたくなると、たまにねだって送ってもらっていた。私の人生でいちばんの“お取り寄せ”は、母実家からの詰め合わせだったのかもしれない。

(文:白央篤司 編集:毛谷村真木/ハフポスト日本版)

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