業務スーパー創業者が太陽光発電所で羊を放牧する理由 地域も自然も活かすソーラーグレージングとは

2 時間前 2

木々に囲まれた野球場ほどの広さの草地に並べられた太陽光パネル。その周囲では約30頭の羊たちが、のんびりと草を食んでいる。中には夏の強い日差しを避けて、パネルの日陰に寝そべって涼む羊の姿も──。

太陽光パネルの隣で羊が牧草を食べて育つ、ソーラーグレージングの牧場
太陽光パネルの隣で羊が牧草を食べて育つ、ソーラーグレージングの牧場

町おこしエネルギー提供

こんな光景が広がっているのは、2025年に運転を開始した北海道白糠町和天別にあるソーラーグレージング発電所〈発電出力・約2MW(DC)〉だ。沼田昭二氏が会長兼社長をつとめる「町おこしエネルギー」(兵庫県加古川市)のグループは現在、この地を含む北海道東部の4カ所でソーラーグレージング発電所を運営している。

いずれも耕作放棄地などを利用しており、地形や景観を破壊することなくソーラーパネルを設置できる新たな方式だ。

神戸物産の創業者として、1000店以上が加盟する業務スーパーチェーンの基礎を築いた沼田氏。神戸物産の経営は長男に任せ、2016年に再エネ事業会社の町おこしエネルギーを立ち上げた。もう一つの主要事業である地熱発電には180億円以上の私財を投じ、2024年に熊本県小国町で自社開発の発電所が運転を開始している。

東京都内で取材に応える町おこしエネルギーの沼田昭二会長兼社長
東京都内で取材に応える町おこしエネルギーの沼田昭二会長兼社長

小泉耕平

62歳からの大胆な挑戦の理由を、沼田氏は「日本の課題であるエネルギー自給率や、食料自給率の向上に貢献するためです。化石燃料の輸入のために、毎年20兆円を超える国富が海外に流出しています。再エネを増やしていくことで、現状を変えたい」と語る。

ソーラーグレージングの用地として利用しているのは、使われなくなった放牧地や耕作放棄地など、すでに人の手が入った土地だ。開発の手法にも、強いこだわりを持っているという。

「樹木の伐採・伐根や、切土・盛土には問題があると考え、行わないようにしています。表土を剥ぐと、土壌に蓄えられていた二酸化炭素が空気中に出てしまいますから。たとえ発電に使える面積が減っても、極力、自然に手は入れません。農業や畜産と発電を融合させて、耕作放棄地を蘇らせていくというのがコンセプトです」

羊で回る「三方よし」のビジネスモデル

それにしても、なぜ羊なのか。太陽光パネルの下で野菜や穀物を育てるソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)に比べるとまだ日本での知名度は低いが、太陽光発電と畜産を同時に行うソーラーグレージングは欧州、北米、豪州などで近年、普及が進んできているという。グレージング(glazing)とは、英語で「放牧」や、「草を食む」といった意味だ。

沼田氏によれば、ソーラーグレージングは関わる立場ごとに以下のような利点がある。

まず、発電事業者にとっては、太陽光パネルの下や周囲に生えてくる雑草を取り除くための管理コストを省くことができる。羊たちが草を食べてくれるからだ。

次に、羊を育てる畜産農家にとっては、餌代が節約できるのが最大のメリットだ。放牧を行うのは春から秋にかけてだが、この間は自然に生えてくるクローバーなどの雑草を食べてくれるので餌代がほとんどかからない。

放牧によるストレスフリーな環境でのびのびと育った羊には、肉の品質向上も期待できる。夏場にパネルの日陰で涼むことができるのも、温暖化の影響が強まる昨今では利点だ。「パネル下の日陰で育った牧草はやわらかいので、羊にとってもごちそうです。発電事業者にとって一番、草刈りが必要なところを食べてくれる」と沼田氏は微笑む。

太陽光パネルの下で涼む羊たち
太陽光パネルの下で涼む羊たち

町おこしエネルギー提供

地域の人々にとっても利点がある。地場産業としての畜産業を持続可能にすることで、耕作放棄地の拡大を防ぐことができるのだ。

町おこしエネルギーは地元で古くから活動してきた畜産農家らをグループ会社として組織し、羊の世話に当たってもらっている。羊肉の売上はすべて畜産農家のものとなるのに加え、町おこしエネルギーの売電収入からは発電所と放牧場の管理料が支払われる。単独では維持が難しくなった畜産農家を維持する仕組みだ。

「地域の畜産農家の方が事業の維持に困られていて、『なんとかなりませんか』と相談を受けた結果、後継者がいらっしゃることを条件にグループに入っていただいた例もあります。現在、国内の羊肉の自給率は1%以下で、ほとんどが輸入品。畜産農家を守ることで、食料自給率の向上に少しでも貢献できればと思います」(沼田氏)

発電した電力は20年間のオフサイトPPA(電力購入契約)を結んで大企業などに供給する他、蓄電池や自営線を活用して地元の工業団地や公共施設などに給電することも計画されている。こうした「地産地消型」の再エネが増えれば、地域外への電力料金の支払いが減り、地域内でお金が回ることになる。

仕組みがうまく回っていくかは今後の検証を待つ必要があるが、発電事業者、畜産農家、地域にとって「三方よし」のビジネスモデルが志向されていることがわかる。

太陽光発電所では初の「自然共生サイト」

現在、町おこしエネルギーが白糠町内で整備を進める白糠ソーラーグレージング発電所〈発電出力17MW(DC)、2028年運転開始予定〉の敷地内にある渓畔林(渓流沿いの森林)の保全計画は、2025年9月、「自然共生サイト」の第1期の認定を受けた。

「自然共生サイト」とは、生物多様性の保全に貢献している区域を環境省が認定する制度で、2030年までに陸と海の30%を保全する国際目標「30by30」を達成するため、企業所有など民間の土地を保全対象として評価する制度。2025年4月に法制化された。

太陽光発電所を含む再エネ敷地内での認定は他に例がなく、今回が初の事例だ。人の手が入った土地にもかかわらず認定された理由を、沼田氏はこう説明する。

「保全の対象となった沢のあるエリアには太陽光パネルを置いておらず、植物や鳥類など、生態系の状態を毎年調べて保全する計画を立てています。耕作放棄地として荒れていってしまうよりも、生物多様性を維持できると考えられます。太陽光パネルを設置した牧草地では羊の糞が有機肥料になるので化学肥料を撒く必要がなく、土壌中の微生物などの状態を健康に保ちやすい。そうした相乗効果も評価していただけたのだと思います」

沼田昭二氏
沼田昭二氏

小泉耕平

沼田氏はソーラーグレージングの規模をさらに拡大していこうとしている。現在4カ所ある発電所兼放牧場は年内には8カ所にまで増え、耕作放棄地などを活用したその他の発電所も合わせた発電出力の合計では200メガワットを上回る予定だという。

「1社の力で一気に数を増やそうとしても限界があります。みんなが協力してやっていくことが大切。フランチャイズ方式で、パートナーを増やしていくことを考えています」(沼田氏)

業界の構造を徹底的に研究したうえで効率的なビジネスモデルを構築し、それをフランチャイズで全面展開するのは沼田氏の得意とするところだ。2000年に兵庫県内で1号店をオープンさせた業務スーパーも、単独では立ちいかなくなった地域の酒屋やスーパーマーケットを次々とフランチャイズに引き入れて短期間のうちに全国チェーンに成長させた。

逆風が伝えられることの多い再エネ業界だが、地域との共生を志向した試みで、流れを変えることができるか。今後の展開が注目される。

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