『植物時代 人類進化の種が蒔かれたとき』(青土社) - 著者: ディーン・フォーク - 長谷川 眞理子による解説

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植物時代 人類進化の種が蒔かれたとき
『植物時代 人類進化の種が蒔かれたとき』(青土社)著者:ディーン・フォーク

人類とは、常習的に直立二足歩行して移動する生物のことだ。こんな人類が進化史上に出現したのは、今から六〇〇万から七〇〇万年前の間と言われている。どんな生物から出てきたかと言えば、現生のオランウータン、ゴリラ、チンパンジーが含まれる大型類人猿だ。からだが大きくて尾のない霊長類である。その中で人類にもっとも近縁なのはチンパンジーである。このチンパンジーの系統と人類の系統が分かれたのが、およそ六〇〇万から七〇〇万年前なのだ。

出現以来の人類には、いろいろな種が存在した。しかし、現在まで残っているのは私たちヒト(ホモ・サピエンス)だけである。現在のヒトは、道具を駆使し、地球表面を改変し、言語を操ってさまざまな文化を発達させているので、とても認知能力が高いということになる。そこで、こんな高い認知能力は、いつごろ、どんなことから進化してきたのだろう、という疑問が生じる。

これは、過去に起こった出来事について推論することだ。過去の再編はただでさえ困難な仕事であり、文字も書物もない何百万年も前のこととなると、化石や遺物などに頼らざるを得ない。そこで、人類が作った道具である遺物を探すと、石器がある。最古の石器と考えられるものが出てくるのは、およそ三五〇万年前だ。そこで、人類の高い認知機能は、石器を作ることから始まったのではないかという考え方が、人類進化史の研究では、主流であった。しかし、本当にそうだろうか?

人類が出現したおよそ六五〇万年前から、最古の石器が出てくる三五〇万年前までには、三〇〇万年の長い年月がある。その間、人類は何を考え、何をしていたのだろう? 本書は、その間を「植物時代」と名付け、石器が出てくる前の人類史について「石器派」が考えてこなかったさまざまな重要な考察をまとめたものである。

なぜ「植物時代」なのかと言えば、人類は、石器を作るようになるずっと以前から植物素材を利用して道具を作っていたのであり、植物素材の利用こそが、人類の高い認知機能の基礎になったという考えが、本書の主たる主張だからだ。しかし、石は残るが植物は残らない。だから、人類誕生後の三〇〇万年間にどんな植物素材の道具を作っていたのか、実際の証拠を見ることはできない。それでも、さまざまな事実から、植物素材の加工こそが重要だっただろうと考え、石器時代以前の期間を「植物時代」と名付けたわけである。
《つづきは本篇にておたのしみください》

[書き手]
長谷川眞理子(はせがわ・まりこ)
進化生物学者。イェール大学准教授、早稲田大学教授、総合研究大学院大学教授・学長などを経て、2023 年4 月より日本芸術文化振興会理事長。野生のチンパンジー、イギリスのダマジカ、野生ヒツジ、スリランカのクジャクなどの研究を重ねつつ、人間の進化と適応の研究も行っている。主な著書に、『クジャクの雄はなぜ美しい?』(紀伊國屋書店)、『ダーウィンの足跡を訪ねて』(集英社)、『私が進化生物学者になった理由』(岩波現代文庫)、『進化的人間考』(東京大学出版会)がある。

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