『日本人の精神Ⅰ 権威と空気の構造』(新潮社) - 著者: 佐伯 啓思 - 橋爪 大三郎による書評

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日本人の精神Ⅰ 権威と空気の構造
『日本人の精神Ⅰ 権威と空気の構造』(新潮社)著者:佐伯 啓思

佐伯啓思氏は「日本論」全三冊を刊行するという。その第一弾だ。

本書はまず定番を押さえる。丸山眞男『現代政治の思想と行動』。ルース・ベネディクト『菊と刀』。山本七平『「空気」の研究』。福澤諭吉『文明論之概略』。遠藤周作『沈黙』。不干斎(ふかんさい)ハビアン『破提宇子(はでうす)』など。それらのエッセンスを嚙(か)み砕いて栄養満点のスムージーのようにした著者の語り口が柔らかい。

山本七平が日本教を説いた。著者は言う。それは≪教義や律法など…硬質の文書≫を持たなくても≪日本人の思考や行動を型どる「見えない原則」なの≫だ。どんな原則か。

≪日本人…も西洋人…も…「信」が社会を構成し、倫理の基盤をなす…が、西洋では、それは絶対者への「信仰」で…日本人…は人に対する「信頼」…である≫。するとどうなるか。≪絶対的な神をもたない…相対性の世界では、逆説的…に、容易に何かあるものが一時的に絶対化されてしまう≫のだ。山本のいう「空気」のどんぴしゃな説明である。

西欧文明を受け入れつつ日本の自立をはかる。この≪日本近代のディレンマ≫と、福澤諭吉は格闘した。著者はその正統な後継者である。
【初出メディア】
毎日新聞 2026年8月15日
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