「吸血鬼」と恐れられ埋葬された女性、そのなぞに迫る ポーランド

4 時間前 2

2026.08.25 Tue posted at 20:35 JST

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ポーランドで発掘された400年前の墓からは、錆びた鎌が首元に突きつけられた若い女性の遺体が見つかった/Łukasz Czyżewski via CNN Newsource

ポーランドで発掘された400年前の墓からは、錆びた鎌が首元に突きつけられた若い女性の遺体が見つかった/Łukasz Czyżewski via CNN Newsource

(CNN) ポーランド北部のピエン村付近で2022年、400年前の無名墓地から、のど元にさびた鎌の刃を渡され、足に南京錠を取りつけられた若い女性の遺骨が発掘された。その不気味な姿から、住民らはこの女性が生き返るのを恐れていたことが分かる。遺骨は「ゾシア」と名づけられ、世界各地で見出しを飾った。24年には、女性の顔を復元した研究者らを追うドキュメンタリー番組「フィールド・オブ・バンパイア」も放送された。

同じ研究チームの一部メンバーがこのほど、ゾシアに関する初の系統的な研究結果を発表。古来のDNAなどに対する最先端の分析を駆使して女性の身元や死因を探った。この女性をはじめ、同じ場所に埋葬されたほかの人々もおそらく、吸血鬼や悪魔として恐れられていたようだ。チームはその理由も解き明かそうと試みている。

論文は先月30日、考古科学専門誌JASRに掲載された。研究チームを率いたポーランドのニコラウス・コペルニクス大学考古学研究所のダリウス・ポリンスキ教授は、「遺体を墓の中にとどまらせなければという警戒策が、二重に講じられていたのは異例。生き返る恐れが大きかったということだ」と述べた。

ポリンスキ氏と同僚らのチームは05年にピエン村での発掘を始めた。同氏によると、現場は17世紀のころ、約4世代にわたる墓地として使われていた。当時の墓が計101基見つかっているという。

カトリックの埋葬を特徴づける十字架やメダルのような聖品が全くないことから、プロテスタントの墓地だったと推定される。この地区には当時、ドイツやオランダ出身のルーテル派、メノー派などプロテスタントの住民が、古くからのカトリック系ポーランド人とともに暮らしていた。研究チームによると、南京錠はポーランド国内のユダヤ教墓地でも見つかっているが、ここではほかにユダヤ教の墓だったことを示唆する特徴はみられない。

ゾシアの外見を再現した画像/TSE Ewolucja via CNN Newsource
ゾシアの外見を再現した画像/TSE Ewolucja via CNN Newsource

英オックスフォード大学で中世史と考古学を研究するジョン・ブレア名誉教授は、のど元に鎌を置かれて埋葬された女性たちについて、「こうやって動けないようにしておかないと、生きている者に危害を加えるかもしれない。そういう危険をはらんだ遺体だと考えられていたのは間違いない」と述べた。ブレア氏は今回の研究に参加していない。

同氏によれば、死者の蘇生を防ごうとする「遺体殺し」の行為はさまざまな時代に世界各地で広く確認されているが、上記のような形式は近世のポーランドに特有の風習とみられる。

「異例の」埋葬

研究チームによると、この場所に残っている数十件の埋葬には通常と異なる遺体の配置や副葬品がみられた。子どもがうつ伏せになっている例、骨格がはりつけの体勢だった例、頭蓋骨(ずがいこつ)の周りにかみついたり動いたりするのを防ぐかのように石が配置された例、鎌と南京錠が使われている例などがあった。

ピエンの墓地は村外れの斜面の十字路わきにあり、教会や礼拝堂からは遠く離れている。「社会的地位にかかわらず、世間から排除されていた死者、死後まで恐れられていたとみられる者の埋葬地」として使われていた可能性がうかがえると、研究チームは指摘する。

「このような埋葬地は一般に文献から排除される。関連する資料がないのはそのためだ。自殺者や異教徒、市民権のない外来者、放浪者、悲劇的な死を遂げた者に適用された埋葬方式だ」

ゾシアが埋葬された当初、三角形の南京錠は足の親指に取りつけられていたが、発掘された時には開いた状態だった。鎌にはカバかハンノキ、カエデの柄があり、蘇(よみがえ)りそうになった時に首を切る用意として、後日首の上に置かれた。

遺体が白骨化した後で墓が掘り返された場合は関節が離れたり移動したりしたはずだが、その形跡はないことから、研究チームは遺体が完全に腐敗する前に鎌が置かれたとの仮説を立てた。筋肉などの軟組織がまだ骨格を支えていたことがうかがえるという。

チームによると、さらにゾシアの死後、口か鼻に銅と金を含む何かが押し込まれ、口蓋(こうがい)に緑がかった変色が残ったことが分かった。銅と金の比率が当時の合金とは一致しないため、硬貨ではなかったとみられる。遺体にこうした異物を入れるのも、「魔除けの風習」だった可能性があるという。

ポーランド北部ピエン村付近の墓地からは計101基の墓が見つかった/TSE Ewolucja via CNN Newsource
ポーランド北部ピエン村付近の墓地からは計101基の墓が見つかった/TSE Ewolucja via CNN Newsource

ゾシアはよそ者だったのか

研究チームはこの疑問に答えるため、ゾシアのDNAと遺骨に含まれる酸素やストロンチウムの同位体比を調べたが、明確な結果は得られなかった。

歯の組織の化学組成からは、この地域の食物や水を摂取していたことが示された。墓地内のほかの遺骨とも似ていることから、ゾシアはここで子ども時代を送ったと考えられる。ただしこの特徴は、同じ墓地に通常の方式で埋葬された人々とも似ていた。中欧のほかの地域で育ってもやはり同様のパターンになっただろうと、チームは指摘する。

また母系の祖先をたどれるミトコンドリアDNAは、ゾシアの母や祖母など、女性の近親者にスカンジナビア系の祖先がいた可能性を示している。ただしチームによると、これはゾシアの地理的な出自をめぐる複数の可能性のひとつにすぎない。より詳しい情報が得られる核DNAは復元できなかった。

イスラエルのエルサレム・ヘブライ大学で遺伝学を研究するシャイ・カルミ准教授は、同じ墓地の別の墓に関する未発表の研究に参加したが、ゾシアの研究には関与していない。「チームが分析したのはミトコンドリアDNAだけ。これは母親からのみ受け継がれる非常に短いゲノム配列だ」と説明した。

「これだけ短いと、まれなケースを除けば祖先についてあまり多くの情報は得られない。今回も、このミトコンドリアDNAは欧州全域にみられる配列なので、あまり参考にならない」という。

墓の中から見つかった糸は、帽子やボンネットの飾りだった可能性がある/Łukasz Czyżewski via CNN Newsource
墓の中から見つかった糸は、帽子やボンネットの飾りだった可能性がある/Łukasz Czyżewski via CNN Newsource

チームは一方で、17~19歳で亡くなったゾシアが裕福な家庭の出身だった可能性は高いとみている。頭蓋骨の近くで痕跡(こんせき)が見つかった絹の生地は帽子の縁取りに使われたとみられ、純金と純銀の糸が交じっていた。チームによれば、ほぼ同じ時期にポーランド南部クラクフで埋葬された国王ジグムント3世とハプスブルク家出身の王妃コンスタンツェの装束に、純金の糸は一本も使われていなかった。

ポリンスキ氏によると、ゾシアの骨格を調べた過去の研究では、胸骨に血管腫があったことが示唆された。この病気が痛みを引き起こし、胸の変形や腫れの原因となった可能性もある。ただし今回の研究では、死因につながったとみられる外傷や病気の痕跡は見つからなかった。

チームは現在も研究を進めている。DNAサンプルをさらに調べることにより、死因の特定に近づけるかもしれないと、ポリンスキ氏は言う。ただし、人々がゾシアの何を恐れていたのかを特定するには、さらに時間がかかる可能性があるという。

同氏は、17世紀にこの地域で頻発した疫病や飢きんなど災難の責任を負わされたのではないかとの見方を示す。当時の人々は、これらを死者が引き起こす超常現象ととらえることもあった。通常の習慣から大きく外れた異状埋葬は、この時期のポーランドやほかの多くの地域で比較的よくみられた。吸血鬼という言葉は18世紀まであまり広く使われていなかったが、こういう埋葬法はその後、吸血鬼方式として知られるようになった。

ゾシアの左足の親指に取り付けられていた三角形の南京錠/Łukasz Czyżewski via CNN Newsource
ゾシアの左足の親指に取り付けられていた三角形の南京錠/Łukasz Czyżewski via CNN Newsource

英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンで中欧史を研究するマーティン・レイディ名誉教授は、この研究に参加していないが、ゾシアが異状埋葬の一例だったという説に同意している。

「当時の住民はゾシアが亡霊になるかもしれないと考え、南京錠と鎌という二重の予防策を打つことにした」と、レイディ氏は説明する。

「中欧のほかの地域では、遺体に杭を打ち込んだり、頭部を切断したり、全身にとげを配置したり、焼いてしまったりする手段が使われた」

こうして悪霊扱いされたゾシアが今、しぶしぶと自分の秘密を明かし始めたようだ。チームはほかにも、この墓地の多くの埋葬についてさらに詳しく調べる構え。そして、ゾシアを埋めた人々がなぜそこまでして墓の中にとどまらせようとしたのか、理由の解明をめざしている。

「サイエンス」のニュース

Video

Photo

注目ニュース

記事全体を読む