「あなたはどうして海外へ?」
世界100の国・地域で生きる100人の日本人にインタビューした『世界へ飛び出た100人の日本人』(おかけいじゅん著/集英社インターナショナル)。
さまざまな思いをもって海外で生きる6人の女性のインタビューを、同著から一部抜粋、再構成してお届けします。
vol.5 タトゥーアーティスト Yoshika Akazakiさん(1993年にフランスに居住)
「タトゥー=反社会的」のイメージ
━━タトゥーアーティストになろうと思ったきっかけは?
タトゥーとの出会いは14歳くらいのときでした。音楽のライブで和彫の入った人を見かけて、ふと「すごくきれいだな」って思ったんです。そのころから漠然と「タトゥーアーティストになりたい」という気持ちが芽生えていました。
ただ、その後に調べていくと、当時の日本の和彫の世界は、朝5時起床で師匠の下で厳しい修業を積んでいくような世界だと知りました。そのハードルの高さに少し抵抗感を覚えてしまい、数年は具体的な行動がとれませんでしたね。
でも、18歳のときにアメリカンタトゥーを日本に広めている彫り師の方と出会ったんです。彼が基礎的なタトゥーの彫り方を教えてくれて、「私でもできるかもしれない」と思わせてくれました。そこでやっとタトゥーアーティストになることを決心したんです。ただ同時に、やるなら日本を出なければいけないとも感じていました。
━━なぜ日本ではできないと感じたんですか?
私が惹かれていたのは、きれいでファッショナブルなタトゥーでした。でも、当時(1990年代)の日本におけるタトゥーは、いまよりもずっと反社会的なイメージが強かった。日本では自分がやりたいタトゥー表現ができないと思ったんです。
ここなら自由に自分を表現できる
━━そこから、どうしてパリへ?
友達が「一緒にパリに遊びに行かない?」って誘ってくれたのがきっかけでした。はじめは軽いノリでしたが、いろいろと調べていくうちに、当時のフランスでは雑誌の表紙にタトゥーが入ったファッションモデルが登場していることに気づいたんです。日本とは違って、タトゥーをファッションとして扱う感覚がフランスにはある気がしました。視察感覚で行ってみた結果わかったのは、フランスは日本よりタトゥーの歴史が浅い分、イメージが固定化されていないこと。つまり、自由な表現ができる。それで「パリいいかも」って思ったんです。
━━パリでタトゥーアーティストになるために、まずはなにからはじめたんですか?
まず、1年間の語学留学に行きました。でも、私は学校が苦手なタイプだったので、結局授業をサボってタトゥーショップをめぐっていましたね。自分から動いてパリのタトゥー文化に触れたり、アーティストに会ったりしていかないと、1年間が無駄になると思ったんです。1年経って日本に帰国した後は、アルバイトでお金を貯めて、帰国から半年後にはパリに戻りました。結果的に、語学留学時代に出会った人との縁が仕事につながっていきました。
━━フランス移住の決め手はなんですか?
ここなら自由に自分を表現できると感じたことです。フランスは日本文化に好意的な人が多く、強い関心を寄せてくれます。タトゥーを彫る私に対しても、それは同様でした。当時の日本では肩身の狭さを感じていたのですが、フランスでは受け入れられて、むしろ好意を持ってもらえる。そんな環境が自分には合ってたんだと思います。
職業としてのタトゥーアーティスト

写真提供/Yoshika Akazakiさん
━━どんなタトゥーを彫っているんですか?
花や動物などの自然系と、あとは和風のモチーフが多いです。最近はとくに花が人気で、インスタに載せた写真を見てくれた人が何人も「私にもこんな花を彫ってほしい」と彫りに来てくれます。そのたびに写真を撮って載せているので、気づいたらインスタが花のタトゥーばかりになってきました(笑)。
━━本当にカジュアルにタトゥーを彫るんですね!
彫る方にとっても彫られる方にとっても、タトゥーはファッションとして身近な存在なんです。最近だと、フランスでは美大の卒業生がタトゥーアーティストになることも珍しくありません。日本とはだいぶ違いますよね。タトゥーアーティストが職業として確立されてきていると感じます。
━━タトゥーショップ「YOSO」も運営されていますね。
個人でタトゥーアーティストをやっていると、お客さんとは関わるけど、他のアーティストと出会う機会が少ないんですよね。そこで、アーティスト同士の横のつながりが生まれるような場として、複数人のアーティストが共同で使える「YOSO」をつくったんです。いまではタトゥー以外のジャンルのアーティストとのコラボも積極的に進めています。
━━タトゥーアーティストはフリーランスが多いんですか?
昔はお店に雇われて朝から晩まで働くのが当たり前でしたが、最近はフリーランスが主流ですね。実際にうちのお店にも「数日間使わせてほしい」って世界中からタトゥーアーティストが集まってきています。
「その人と交わり、一体になるもの」

写真提供/Yoshika Akazakiさん
━━Yoshikaさんにとってのタトゥーとは?
生活の一部ですね。はじめは遠い憧れの存在でしたが、上手くなるために必死に技術を磨いて、あるときからそれが仕事になって、気づいたら30年ほどが経ちました。結果、私にとってタトゥーを彫っている時間は、特別な時間ではなく、むしろ落ち着く時間になっています。もう私からタトゥーを取ったらなにも残らないんじゃないかと思います(笑)。
━━その感覚はいつから芽生えたのでしょうか?
タトゥーとは「その人と交わり、一体になるもの」という感覚を持ってからだと思います。初めのころは、「絵を描く」という感覚が強く、技術や感性を磨くことに意識が向いていました。
ただ、経験を積んで余裕が生まれてくると、目の前にいる人とのコミュニケーションが増え、その人に合わせたタトゥーを自然と考えられるようになるんです。
それぞれの生活や、性格、肌の調子に合わせながら、その人と一つになるタトゥーを探していく。それは技術ではなく、お客さんとのコミュニケーションによってわかるもの。そうした余裕と感覚が芽生えはじめて、自分にとっても生活の一部になっていった気がしますね。
はっきり言わざるを得ない対人文化

写真提供/Yoshika Akazakiさん
━━パリで働くなかで、日本との違いは感じますか?
フランスには「お客さまは神様」みたいな考え方はないですね。タトゥーショップでも、カフェやパン屋でも、基本的にはお店とお客さんは対等です。私もお客さんに無理なことを頼まれた場合は「それはできない」って断ります。
━━生活面ではどうでしょう?
日本でよく感じる「暗黙のルール」みたいなものはありません。たとえば、人から頼み事を何回も引き受けていたら、こちらの頼みも聞いてくれるだろうと当たり前に思いますよね。お中元が来たら返さなきゃみたいな。でも、フランスではそういうのもないんですよね(笑)。
━━Yoshikaさんはフランス生活が長いわけですが、ご自身もフランス人的になっていったりするんですか?
日本人らしい気遣いみたいなものはなくなりました(笑)。フランスでは、相手の気持ちを汲み取ることはあまり美徳にならないんです。恋愛でも友人関係でも、日本なら穏やかで控えめにしていれば相手が察してくれるかもしれませんが、フランスでは口に出してはっきり言わないと、相手に伝わらないことの方が多いです。誰もなにも察してくれませんから(笑)。
妄想が現実を変えていく
━━当時のYoshikaさんのように、これから海外で挑戦したいという方にアドバイスがあれば教えてください。
妄想力ですね。振り返ると、私がここまでがんばれたのは、「こうなりたい」というイメージが明確にあったから。「タトゥーアーティストとして世界で活躍する」というイメージもそうですが、他にもいろんな妄想がありました。「ジョニー・デップがお店に来たりして……」とか。一見冗談みたいな妄想も大切で、目標に近づいていく糧になる。だからたくさん妄想して、そこに向かって進んでほしいと思いますね。
━━今後はどんな活動を予定していますか?
日本で活動してみたい気持ちがあります。日本の固定的なタトゥーのイメージを、そろそろ変えることができるんじゃないかって思えてきました。私がパリで学んだファッションとしてのタトゥーを日本で試してみたい。まずは少しずつ日本で活動して、「こんなタトゥーもあるんだ」って知ってもらうところからはじめたいなと思っています。
(文/おか けいじゅん 写真提供/Yoshika Akazakiさん)
『世界へ飛び出た100人の日本人』(集英社インターナショナル)
世界で生きる日本人100名にインタビュー。北欧の建築家、インドの映画監督、小泉八雲の子孫、メキシコでバズった無職、パリのタトゥーアーティスト、ガーナのからあげ屋さん、ゴミを拾うウルトラマン、日本文学を広める編集者、カリブのDJ、内戦下の日本語教師、東南アジアで売れたお笑い芸人、東欧の空手家、牛糞アートの伝道者……百人百様の海外生活のリアルを収録。

写真提供/Yoshika Akazakiさん

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