人文科学のリベラル偏向に警鐘 大学の報告書に教育界が反発

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ヴァンダービルト大学、テネシー州ナッシュビル - 2022年5月10日。写真提供:Fotoluminate LLC(Shutterstock経由)。

ヴァンダービルト大学、テネシー州ナッシュビル – 2022年5月10日。写真提供:Fotoluminate LLC(Shutterstock経由)。

By Sean Salai – The Washington Times – Wednesday, July 1, 2026

 バンダービルト大学がまとめた報告書が、高等教育界で波紋を広げている。報告書は、人文科学分野の研究は知識の探求ではなく、社会正義を重視する政治的立場に大きく左右されていると結論付けた。

 「学術研究の現状」と題した報告書は、現代の歴史学、哲学、人類学、音楽学、社会学、文学研究について、本来研究を導くべき「利害に左右されない探究」よりも、人種や性自認を巡るリベラルな価値観を優先していると批判している。

 報告書は、バンダービルト大学のダニエル・ディアマイヤー学長と、セントルイス・ワシントン大学のアンドリュー・マーティン学長の依頼を受け、人文学・社会科学分野の著名研究者らが代表的な研究を分析してまとめた。

 研究者らは「もし社会正義(ジェンダー平等など)を強く支持する学者たちが、自分たちの理想を進めるためには、たとえば『男女の行動の違いに生物学的な原因(脳や遺伝など)は一切ない』と証明するしかないと思い込んでしまったら、どうなるだろう。彼らは自分の信念からも、周りの同僚からも、『違いなど絶対にあってはならない』という凄まじいプレッシャーを受けることになる」と警告。その結果、そもそもそうした(タブーに触れるような)研究自体が行われなくなるか、あるいは、もし研究が行われて『不都合な結果』が出た場合には、その事実が隠蔽されるか、あるいは結果をごまかすためにデータが都合よく再解釈されてしまうかのどちらかになる」と主張している。

 報告書は、人文学系学部の志願者が減少していることも作成の背景にあると説明している。人文学は卒業後の賃金水準が比較的低い分野とみられている。

 さらに、「利害関係にとらわれない真理の探求が脅かされるようなことになれば、それは大学という存在の根幹を揺るがす。司法制度において公正な裁きが脅かされれば、司法制度そのものが危うくなるのと同じだ」と訴えた。

 6月5日に報告書が公表されると、社会科学者らから直ちに反発の声が上がった。

 高等教育専門誌「クロニクル・オブ・ハイヤー・エデュケーション」には反論の寄稿や投書が相次ぎ、中には「悪魔的なほど邪悪な報告書だ」と非難する意見もあった。

 米人類学会(AAA)のキャロリン・ラウス会長は6月11日の声明で、「人類学者は厳しい批判を歓迎する。しかし、限られた証拠だけを基に、人類学の学問文化や研究慣行、専門職としての規範全体について断定的な評価を下し、しかも関係者への聞き取りも行っていない。このようなことは受け入れられない」と述べた。

 一方、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の戦略イニシアチブ担当上級ディレクター、コーリー・ファインスタイン氏は、「研究の動機そのものに疑問を投げかける報告書が、評価対象となった人々から強い反発を招くのは当然だ」と電子メールで主張した。

 ワシントン・タイムズの取材に応じた別の識者らは、この報告書は、実社会で役立つ能力を教えることより政治活動を優先する学界に対する警鐘だと評価した。

 コーネル大学で博士号を取得し、ハーバード大学で歴史学の客員研究員を務めるアダム・セテラ氏は「人文学では、資本主義打倒を唱える教授を見つける方が、共和党員の教授を見つけるより簡単だ」と語った。

 さらに「人文学は学界の恥になってしまった。私は英文学の博士号を持ち、一度も共和党候補に投票したことはないが、それでもそう思う」と述べた。

■世論の信頼低下

 高等教育に対する国民の信頼低下を示す調査はこれまでにも複数出されている。

 ギャラップの調査によると、大学教育が「非常に重要だ」と答えた成人は2025年9月時点で35%にとどまり、2010年の75%から大きく低下した。

 超党派政策センターは今年3月、2012~21年に学士号を取得した卒業生の約半数が、卒業1年後も学位を必要としない低賃金職に就いていたとする推計を発表した。

 そのうち約75%は卒業から10年後も不完全就業状態が続いていた。また、2019年に4年制大学へ入学した学生のうち、6年以内に卒業したのは61%にとどまり、3700万人超が中退していた。

 ワイオミング大学の経済学者スコット・ビューリエ氏は、報告書は就職を重視する受験生を遠ざけている政治的同調圧力に大学が対抗すべきだと訴えていると指摘する。

 「重要なのは、多様な考え方を厳密に検証できる環境を維持し、通説と異なる結論であっても真実の探究を評価することだ」と語った。

 一方、高等教育への信頼低下の理由については研究者の見方も分かれている。

 エール大学が4月に公表した報告書は、大学運営側が「あらゆる人の要求に応えよう」とするあまり、本来重視すべき教育・研究がおろそかになっていると指摘した。

 一方、全米大学協会(AAC&U)は6月の報告書で、人種的正義を求める抗議運動への反発によって、「多様性推進に積極的な」大学が「政治的な標的になりやすくなった」と分析している。

 アリゾナ州立大学米国制度研究センターのドナルド・クリッチロー所長は、バンダービルト大学の報告書は「まさにスズメバチの巣をつついたようなものだ」と語る。リベラル色の強い教育が、就職を重視する学生を遠ざけている可能性を示したからだ。

 さらに、「西洋文明とは人種差別、虐殺、帝国主義、性差別、同性愛嫌悪の歴史だというメッセージばかり伝える授業に、多くの学生は価値を見いだせなくなっている」と述べた。

■入学者減少への危機感

 米国では、2008年以降の出生数減少を背景に、今年秋の大学進学希望者は15%減少する見通しで、高等教育界は「人口の崖」と呼ばれる事態への対応を迫られている。

 非営利団体「高等教育西部州際委員会」は、全米の高校卒業生数が2025年の390万人をピークに減少を続け、2041年には340万人を下回ると予測している。

 教育テクノロジー企業コディオ(Codio)のダグ・ヒューズ最高経営責任者(CEO)は、この報告書は人文学の教員に対し、急速に変化する経済の中で「自らの存在意義を示す」ことを求めていると語った。

 「学生は卒業すると、AIや自動化、急速な技術革新によって変化する労働市場に入っていく。自分が受けた教育がその現実に対応できるものかどうかを知りたがっている」と述べた。

 一方、高校卒業生の間では、高額な4年制大学に行くよりも就職に役立つ資格取得を重視する傾向が強まっている。

 全米学生情報研究センターによると、この春学期の学部生数は1550万人となり、前年同期比1.3%増加した。

 特に短期資格課程は10.2%増の8万6000人となり、学部生増加を牽引した。2年制短大課程も5万9000人増(1.3%増)となった。

 一方、大学院生は4000人減少し、310万人となった。

 ペンシルベニア大学教育史学教授のジョナサン・ジマーマン氏は、「バンダービルト大学の報告書は、学術研究における政治の役割について、必要であり、しかも長年先送りされてきた議論を引き起こした」と指摘。「学界が自らを律することができなければ、代わりに政治家がそれを行うことになる」と警告した。

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