三谷幸喜「赤狩り」描く新作、“仲間の密告を迫る”中川大志らVS小日向文代ら演じる4人の映画人、緊迫の会話の先には…

2 時間前 3

8月15日、東京・PARCO劇場にて三谷幸喜さんの新作舞台、PARCO PRODUCE 2026『アメリカン・ドリーム』が幕を開けた

作・演出を手掛ける三谷さんが長年温めていたテーマ「ハリウッドの赤狩り」に挑んだ舞台で、初日に先立ち8月14日に公開ゲネプロが行われた

開幕に際し、三谷さんは「真面目な作品です。いつもが不真面目な訳ではないですが。もちろん笑いはありますが、今回は喜劇ではありません」とコメント。「『権力』と『芸術』のお芝居をやります。物を作る全ての人々に捧げる物語です」としている。

「赤狩り」で仲間を密告するよう迫られる映画人たち

物語の背景となるのは、1940年代後半のアメリカで広がった反共産主義の動き、いわゆる「赤狩り」だ。

当時のアメリカでは、冷戦の緊張が高まる中、共産主義への警戒が強まった。

米下院の非米活動委員会(HUAC)は1947年、ハリウッドの映画産業における共産主義活動の疑いを調査した。証言を拒んだ脚本家や監督ら10人は「ハリウッド・テン」と呼ばれ、議会侮辱罪で有罪。彼らはハリウッドからブラックリストに載せられ、仕事を失うことになった。

アメリカの議会図書館は、HUACの公聴会をきっかけに、映画業界でその後、数百人がブラックリストの対象になったと説明している。

こうした歴史を背景に、今回の『アメリカン・ドリーム』では映画人たちが仲間について証言=密告するかどうかを迫られる。

劇中で描かれるのは、単純な「密告するか、しないか」という選択ではない。

仲間を売れば、映画人のコミュニティーで裏切り者とみなされ、誰も一緒に仕事をしたがらず、いわゆる“干される”状況に陥る。一方、仲間について語らず沈黙を貫けば、共産主義者やスパイと事実上決めつけられ議会の公聴会で追及を受ける。どちらを選んでも、仕事を失う可能性があるという状況だ。

映画人たちは、仕事と仲間の間で決断を迫られていく。

「あなたはコミュニストですか? あるいはかつてコミュニストだったことはありますか?」

PARCO PRODUCE 2026「アメリカン・ドリーム」左上から小日向文世さん / 浅野和之さん / 山崎一さん 下段 浅野雅博さん / 関谷春子さん / 中川大志さん
PARCO PRODUCE 2026「アメリカン・ドリーム」左上から小日向文世さん / 浅野和之さん / 山崎一さん 下段 浅野雅博さん / 関谷春子さん / 中川大志さん

PARCO PRODUCE 2026「アメリカン・ドリーム」

幕が上がるとクラシックホテルの客室があり、そこが尋問室となっている。

4人の映画人(小日向文世さん / 浅野和之さん / 山崎一さん / 関谷春子さん)は待機場所となっている広間から一人ずつ尋問室に呼ばれ、2人の委員(浅野雅博さん/ 中川大志さん)と向き合う。

最初に呼ばれた「女優(関谷春子さん)」に対し、「委員2(中川大志さん)」が開口一番「あなたはコミュニストですか? あるいはかつてコミュニストだったことはありますか?」と問いかける。このセリフは劇中たびたび反復されることとなる。

追及する側の2人の委員には明確な違いがある。

浅野雅博さん演じる「委員1」は映画に興味がないベテラン委員。一方、中川さん演じる「委員2」は映画好きの青年だ。2人の違いが、場面に緩急や異なる表情を与えていた。

映画青年の「委員2」は、憧れ、尊敬していた映画人を前にして尋問する立場にあり、映画への思いを持つからこその葛藤も描かれる。映画人が仲間を守って仕事を失う場合も、逆に密告する場合も、その内心の理由に踏み込むような問いを投げかける。現代の観客が親しみを持ちやすいキャラクターだ。

一方、「委員1」は映画への思い入れを持たず、「愛国」の名のもとに共産主義者を糾弾するべく、ときに激昂し、ときに老獪な冷たさをみせて尋問する。

追及される4人も、それぞれ異なる立場に置かれている。

決して仲間を売らず信念を強く貫く者、揺れ動く者。キャリアもそれぞれ、ハリウッドのトップ脚本家から、アルバイトで生計を立てる若手俳優と異なっており、またナチスの記憶も新しいドイツからの移住者も含まれ、四人それぞれ。ただ一つの共通項は、映画が好きだということだ。

『笑の大学』『国民の映画』からハリウッドの赤狩りへ

三谷幸喜さんといえば、『古畑任三郎』など軽妙な会話劇のテレビドラマや『ザ・マジックアワー』などのコメディ映画で知られる一方、舞台では権力と表現者の関係も描いてきた。

戦時下の日本で、警視庁の検閲官と喜劇作家が一つの戯曲をめぐって対峙する『笑の大学』(のちに映画化)や、ナチス・ドイツのゲッベルス、ヒムラーらと映画人たちを描いた『国民の映画』などがある。

『笑の大学』では具体的な一つの戯曲が攻防の対象となったのに対し、新作『アメリカン・ドリーム』で問われるのは映画仲間を売るかどうかだ。目の前に具体的なシナリオがあるわけではなく、登場人物が何を守ろうとしているのかを観客が考える余白もある。

また『笑の大学』で一人の検閲官が担っていた「表現を追及する厳格さ」と「それでも作品に惹かれてしまう心情」という二面性が、本作では2人の委員に分けられているようにも見えた。

加えて、現在の観客は、赤狩りの嵐は終焉することを歴史から知っており、本作も光が指す方向をそっと示しているようだ。

三谷さんが「『権力』と『芸術』のお芝居」と語る新作では、権力を持つ側と芸術で表現する側の6人、どちらの側も人間であるというヒューマニズムに立ち、観客に問いかけているのではないだろうか。

【公演概要】PARCO PRODUCE 2026『アメリカン・ドリーム』

作・演出: 三谷幸喜

出演: 小日向文世 浅野和之 山崎一 / 浅野雅博 関谷春子 / 中川大志

東京公演: 2026年8月15日(土)~9月13日(日) PARCO劇場

全国ツアー: 9月17日より京都(京都劇場)、北海道(札幌市教育文化会館)、岡山(岡山芸術創造劇場ハレノワ)、大阪(森ノ宮ピロティホール)、愛知(穂の国とよはし芸術劇場PLAT)、福岡(キャナルシティ劇場)を巡演

上演時間: 約1時間55分(休憩なし)

記事全体を読む