
『ローマ人の心 古代帝国の実像に迫る』(講談社)著者:南川 高志
同時代の隣人の気持ちであっても分からないことが多いのに、他の時代や地域に生きる人々の心などどうして知れようか。
この難問に毅然(きぜん)ととり組んだ本書はそれだけで傾聴に値する。著者はローマ帝政期の政治史を専門とする歴史家であるが、政治や国家の根底にはそこで生きる人間の「心」が問題であることが気になっていたらしい。
数十年前から社会史研究の拡(ひろ)がりのなかで「心性史」が取り沙汰されていたが、著者の探りたい「心」はそれとは異なり、広大な帝国の統合を支えたものとしてのローマ人の「思い」であった。出自に縛られず社会で上昇できる見通しと希望があれば、生と死をめぐる拠(よ)り所は家族だけではなく家族外の世界にも見出(みいだ)すことができる。
最盛期のローマ帝国において、夥(おびただ)しい数の墓碑、記念碑、肖像が作られた背景には、永遠の憩いに配慮できる時代があったことは忘れるべきではない。少なくとも、「最も幸福だった時代」と人々が伝えようとしていたにちがいない。この「幸福な時代」の指摘は、広大な地域を長期にわたって安定した平和が実現するという人類の願いを考慮すれば、ひときわ重要かつ卓抜な論点を示唆してくれる。
【初出メディア】
毎日新聞 2026年5月23日
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3 時間前
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