『ぜつぼう』(講談社) - 著者: 本谷 有希子 - 陣野 俊史による書評

2 日前 6
ぜつぼう
『ぜつぼう』(講談社)著者:本谷 有希子

奇人たちとの交流にいやし

本谷有希子をご存知(ぞんじ)だろうか。劇団を主宰し、複数の小説を上梓(じょうし)している。小説はといえば、なかなか一筋縄ではいかない。いろんな意味で破壊的な主人公が活躍する。

新作『ぜつぼう』もそうだ。主人公戸越は、もうすでに長い間、不眠症に悩まされている、元人気コメディアンだ。ロシア人の相方と貧乏旅行をして、それがTVで放映されて、一気にスターダムにのしあがったのはいいけれど、そもそもしっかりした芸があるわけじゃなし、ピークを迎えた人気はやはり急に冷めてしまう。

そんな主人公がふとしたハズミで知り合う、ダンボールハウスの男がいる。そして男の実家に行くことになる……。

とにかく、この人の小説は細部が優れている。かなり踏み込んで描写する。本谷の才能が非凡なことの証明だ。なおかつ、この小説のいいところは、ダメ芸人の戸越が、ひょんなことから身を置くことになった場所で、奇妙な人物たちと触れ合ううち眠れるようになるというところだ。タイトルの「ぜつぼう」は底を打って、戸越は、東京への帰路の電車の中で、死んだように眠り続ける。一種の癒し小説になっている。
【初出メディア】
日本経済新聞 2006年6月21日

http://www.nikkei.com/
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