AlphaFold3の限界を突破、タンパク質の「構造変化」を予測する新手法「AF3-ReD」を開発

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分子科学研究所・総合研究大学院大学、予測構造間に「斥力バイアス」を導入
創薬や新規タンパク質設計への応用に期待

自然科学研究機構 分子科学研究所/総合研究大学院大学の大貫隼 助教、岡崎圭一 准教授の研究グループは、タンパク質構造予測AI「AlphaFold3(AF3)」において、過去に予測した構造へ近づくことを避ける「斥力バイアス」を導入する新たな手法「AF3-ReD」を開発しました。本手法により、従来のAlphaFoldでは予測が難しかった、タンパク質が機能する際に生じる複数構造間の構造変化や中間構造を幅広く探索・予測することに成功しました。

AlphaFoldは、アミノ酸配列からタンパク質の立体構造を高精度に予測するAIとして生命科学分野に大きな変革をもたらした一方、多くのタンパク質について特定の構造に予測が偏り、機能に重要な「構造変化」を十分に捉えられないという課題がありました。

今回開発したAF3-ReDは、この問題に対してAlphaFold3の拡散生成モデルへ独自のバイアスを導入することで、新たな構造探索を促進します。本研究成果は、国際学術誌「JACS Au」に2026年8月26日付でオンライン掲載されました。

タンパク質は「構造」と「構造変化」によって機能する

タンパク質は、20種類のアミノ酸が連なった鎖状の分子であり、生命活動を支えるさまざまな役割を担っています。タンパク質は、アミノ酸の並び方である「アミノ酸配列」に応じて特定の三次元構造へ折り畳まれます。さらに、単に一つの構造を保っているわけではありません。基質分子やATPなどの分子が結合することによって構造を変化させ、その変化を利用して物質の合成や輸送などの機能を実現しています。

つまり、タンパク質の働きを理解するためには、静止した一つの構造だけでなく、「どのような別の構造を取り得るのか」「構造がどのように変化するのか」を理解することが重要です。

図1.タンパク質の折り畳みと構造変化

タンパク質の折り畳みと構造変化図1.タンパク質の折り畳みと構造変化

アミノ酸配列からタンパク質が折り畳まれ、さらに機能に応じて異なる構造へ変化する様子を示しています。

AlphaFoldが生命科学にもたらした革新と残された課題

タンパク質のアミノ酸配列から立体構造を予測することは、生命科学における長年の大きな課題の一つでした。この課題に大きな進展をもたらしたのが、Google DeepMind社の研究グループによって開発されたAI技術「AlphaFold」です。AlphaFoldはAIを活用することで、アミノ酸配列からタンパク質の三次元構造を高い精度で予測することを可能にしました。この成果が評価され、AlphaFoldの開発者であるJohn Jumper博士とDemis Hassabis博士には、2024年のノーベル化学賞が授与されています。

一方で、AlphaFoldには重要な課題も残されています。

タンパク質は機能する過程で複数の構造を取り得ますが、従来のAlphaFoldでは、多くのタンパク質について特定の一つの構造ばかりを予測してしまう場合があることが知られていました。そのため、タンパク質が実際に機能するときの構造変化や、中間状態を含む多様な構造を調べる用途では限界があります。

こうした問題は、生命科学研究だけでなく、疾患メカニズムの解明や創薬研究にAlphaFoldを活用する上でも課題となっていました。

AlphaFold3の「拡散生成モデル」に着目

今回の研究では、最新版であるAlphaFold3(AF3)を対象としました。AlphaFold3では、画像生成AIなどでも活用されている「拡散生成モデル」というAI技術が構造予測に利用されています。拡散生成モデルでは、まずタンパク質を構成する原子をノイズによってばらばらに散らばらせた初期状態を作ります。その後、ノイズを段階的に除去しながら、各原子をより存在確率の高い位置へ移動させ、最終的なタンパク質構造を生成します。物理学的な表現に置き換えると、確率の高い位置は「エネルギーが低い位置」に対応します。つまり、AlphaFold3の拡散生成モデルは、エネルギーの勾配に沿うように原子を動かしながら、低エネルギー状態に相当する折り畳み構造を探索していると考えることができます。

しかし、特定の構造がほかの構造よりも強く「低エネルギー」として学習されている場合、予測を何度行っても同じ構造へ到達しやすくなります。

研究グループは、これがAlphaFold3で特定の構造ばかりが予測される一因になっていると考えました。

過去の予測構造を避ける「斥力」を導入

そこで研究グループは、AlphaFold3による構造予測を複数回繰り返しながら、過去に予測した構造と似た原子配置へ近づくほどエネルギーが高くなる「バイアスエネルギー項」を導入しました。これにより、次回以降の構造予測では、それまでに発見した構造へ近づくことを避けるような「斥力」が働きます。

同じ構造へ何度も到達することを抑え、これまで探索されにくかった別の低エネルギー構造へAIを誘導する仕組みです。

図2.AlphaFold3による構造探索とAF3-ReDの仕組み

(A)AlphaFold3の拡散生成モデルによる構造探索(B)本研究で開発したバイアス導入による構造探索の促進法図2.(A)AlphaFold3の拡散生成モデルによる構造探索(B)本研究で開発したバイアス導入による構造探索の促進法

(A)AlphaFold3の通常の構造探索
エネルギー地形に沿って低エネルギー状態へ進み、タンパク質構造を生成します。その結果、最も探索されやすい特定の構造へ予測が集中する場合があります。

(B)本研究で開発したバイアス導入による構造探索
過去に予測した構造付近へバイアスを追加することで同じ場所への再探索を抑え、別の構造状態への探索を促進します。研究グループは、この斥力バイアスを利用する手法を「AF3-ReD」として開発しました。

「AF3-ReD」でタンパク質の開構造・閉構造・中間構造まで予測

AF3-ReDをさまざまなタンパク質へ適用した結果、従来のAlphaFoldでは捉えることが難しかったタンパク質の構造変化を幅広く予測できることが明らかになりました。その一例が、アデノシン三リン酸(ATP)合成酵素を構成するF1βサブユニットです。F1βは通常、ATP結合部位が開いた「開構造」を取りますが、ATPが結合すると結合部位が閉じた「閉構造」へ変化します。ところが従来のAlphaFold3では、ATPがF1βに結合している条件でも、開構造が予測されてしまうという問題がありました。

これに対しAF3-ReDでは、開構造から閉構造までを幅広く探索することに成功しました。さらに、その両者の間に存在する中間的な構造についても予測できることが確認されました。

図3.AF3-ReDによるF1βサブユニットの構造予測

開発したAF3-ReDによるF1βサブユニットの構造予測図3.開発したAF3-ReDによるF1βサブユニットの構造予測

通常のAlphaFold3では特定の構造へ予測が偏るのに対し、AF3-ReDでは斥力バイアスを導入することで、開構造、閉構造、さらに両者の中間構造まで探索できることが示されました。この結果から、予測構造間に斥力を導入するという比較的シンプルな考え方によって、従来のAlphaFoldでは困難だったタンパク質の構造変化そのものを予測できる可能性が示されました。

分子動力学シミュレーションとの組み合わせにも期待

今回開発されたAF3-ReDによって、タンパク質が取り得る多様な構造を高速かつ高精度に探索できるようになりました。今後は、AF3-ReDによって得られた予測構造を出発点として分子動力学シミュレーションを行うことで、タンパク質が時間の経過とともに、ある構造から別の構造へどのように移り変わっていくのかを効率的に解析できると期待されています。従来は、分子動力学シミュレーションによって未知の構造状態を一から探索する場合、膨大な計算時間が必要になるケースがあります。AIによって事前に複数の候補構造を得ることができれば、構造変化解析をより効率的に進められる可能性があります。

創薬や新規タンパク質設計への応用可能性

今回の研究成果は、既存タンパク質の構造解析だけにとどまりません。拡散生成モデルはAlphaFoldだけではなく、近年では新規タンパク質の設計や薬剤候補分子の生成にも利用されています。AF3-ReDで導入された「過去に生成した構造を避ける斥力バイアス」という考え方をこうした生成AIへ応用すれば、生成されるタンパク質や薬剤候補分子の多様性を高められる可能性があります。

従来の生成モデルでは見つけにくかった構造や分子を探索できるようになれば、新規タンパク質設計やAI創薬における探索空間の拡大につながることが期待されます。

用語解説

※1 AlphaFold

Google DeepMind社の研究グループが開発した、タンパク質のアミノ酸配列を入力として立体構造を予測するAI技術です。高精度なタンパク質構造予測を実現した成果により、開発者のJohn Jumper博士とDemis Hassabis博士には2024年のノーベル化学賞が授与されました。

※2 拡散生成モデル

画像生成AIなどの発展とともに普及した生成AI技術の一つです。正解データに対してノイズを加えていく「拡散過程」を行い、その後、ノイズを除去して元のデータを復元する「逆拡散過程」をAIに学習させます。AlphaFold3の場合、正解データに相当するものがタンパク質構造です。逆拡散過程の学習では、正解データが低エネルギー状態となるようにエネルギー勾配を最適化します。

なお、ここで扱われる「エネルギー地形」は学習データをもとに形成されたものであり、物理化学的な分子間相互作用によって決定される実際のエネルギーとは異なる点に注意が必要です。

※3 分子動力学シミュレーション

タンパク質分子や、その周囲に存在する水分子などを構成する原子一つひとつについて、ニュートンの運動方程式を数値的に解き、時間の経過に伴う分子運動を追跡する計算手法です。タンパク質の構造変化や分子同士の相互作用を解析するために広く利用されています。

論文情報

項目内容
掲載誌JACS Au
論文タイトル“Enhanced sampling of protein conformations in AlphaFold3 with repulsive bias in the diffusion generative model”
日本語訳「AlphaFold3の拡散生成モデルへの斥力バイアス導入によるタンパク質構造の効率的探索」
著者Jun Ohnuki and Kei-ichi Okazaki
掲載日2026年8月26日(オンライン公開)
DOI10.1021/jacsau.6c00596
論文URLhttps://doi.org/10.1021/jacsau.6c00596

研究グループ

本研究は、以下の研究機関による研究グループによって実施されました。

  • 自然科学研究機構 分子科学研究所
  • 総合研究大学院大学

研究サポート

本研究は、日本学術振興会・科学研究費補助金の支援を受けて実施されました。

  • 若手研究:JP23K14160
  • 基盤研究(B):JP22H02595、JP23K23858
  • 学術変革領域研究(A):25H02299

また、本研究におけるAlphaFoldによるタンパク質構造予測には、自然科学研究機構 岡崎共通研究施設・計算科学研究センターが利用されました。

課題番号は以下の通りです。

  • 22-IMS-C189
  • 23-IMS-C201
  • 24-IMS-C198
  • 25-IMS-C227

研究に関するお問い合わせ先

大貫 隼(おおぬき じゅん)

分子科学研究所/総合研究大学院大学 助教
TEL:0564-55-7465
E-mail:j-ohnuki(at)ims.ac.jp

岡崎 圭一(おかざき けいいち)

分子科学研究所/総合研究大学院大学 准教授
TEL:0564-55-7468
E-mail:keokazaki(at)ims.ac.jp

報道に関するお問い合わせ先

自然科学研究機構 分子科学研究所

研究力強化戦略室 広報担当
TEL:0564-55-7209
FAX:0564-55-7340
E-mail:press(at)ims.ac.jp

総合研究大学院大学

総合企画課 広報社会連携係
TEL:046-858-1629
E-mail:kouhou1(at)ml.soken.ac.jp

■プレスリリース配信元-国立大学法人総合研究大学院大学

https://companydata.tsujigawa.com/company/8021005008267/

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