人々の注意特性に変化がなくても、社会の求める注意力は変化している
ADHDは、注意を長く保つことや衝動を抑えること、必要な情報を頭に置いて作業することなどに困難が生じやすい、遺伝性の高い神経発達上の障害です。
昔は子どもに多い症状でしたが、近年は成人でもADHDの診断や治療薬の処方が増えています。
ただし、診断が増えたことと、ADHDの基礎的な特性を持つ人そのものが増えたことは同じではありません。
そこでSahakian氏らは、新たな患者を集めて実験するのではなく、疫学、認知神経科学、社会環境、神経倫理などの既存研究をまとめる「ナラティブレビュー」を行い、診断や処方の増加を説明し得る要因を整理しました。
英国の大規模研究では、2000年から2018年にかけて、すべての年齢層でADHDの診断と薬の処方が増えていました。
絶対的な増加は子どもで大きかった一方、増加率は成人で最も大きく、男性では18~29歳で診断が約20倍、処方が約50倍に増えていました。
また、13カ国の1億5400万人以上を対象とした別の研究でも、ADHD薬の使用は各国で増加していました。
一方で米国では、2016~2021年の子どもの診断率に有意な変化がみられなかったという報告もあり、増加の仕方は国や時期によって一様ではありません。
この診断増加の背景にあるのは、社会的・臨床的なADHDの理解が進んだことで、これまで見逃されていた人を適切に見つけられるようになった結果だと考えられています。
しかしその中で興味深い報告がありました。それがオーストラリアの2つの出生集団を比較した研究です。
1999~2000年生まれと2003~2004年生まれの子どもを比べると、多動や不注意を示す行動スコア(親の回答から測ったスコア)はほぼ変わっていなかったにもかかわらず、後に生まれた集団の方が後年ADHDと診断される割合が増えていたのです。
つまり、ADHDの診断が増えている背景は、子どもたちの多動や不注意そのものが増えたことだけでは説明できません。
研究者らは、ADHDへの理解が進み、以前なら見逃されていた人が診断されやすくなったことに加えて、同じ程度の多動や不注意でも、以前より生活や学習上の問題として捉えられやすくなった可能性を挙げています。
ここから浮かび上がるのが、ADHDの診断増加の背景に潜む、同じ不注意のスコアをより深刻に捉えるようになった社会の変化です。






English (US) ·
Japanese (JP) ·